音楽の起こす奇跡2:人生の最後に聴く音楽

(クライエントさんの娘さんのご了解を得て書かせていただきました。

大切な思い出を書かせていただきましたので、直接リンクを貼る以外の

無断転載はご遠慮くださるようお願いいたします。)

 

今年の、新緑の季節が始まろうとしていた頃、

かつてのクライエントさんの娘さんから、突然メールをいただきました。

このクライエントさんは、私が音楽療法士になりたての頃から

フィラデルフィアに引っ越すまで7年ほど、月に2回、個人の音楽療法を

一緒にさせていただいていました。

 

その7年の間にはたくさんの変化がありました。

最初は、綺麗なソプラノの声で歌っていらっしゃいましたが、時間が経つに

つれて、歌が減り、声がなかなか出なくなり、楽器も演奏するのが難しくなり、

病気の進行もあって、動きも少なくなりました。

その都度、音楽療法を見つめ直し、何が必要なのかを見極めつつ、音楽を

使っていきました。それでも、いつでも音楽への反応はとても良く、

きちんと聞こえていらっしゃる事がはっきりわかりました。

娘さんは、できるかぎり音楽療法に同席してくださり、一緒に歌ったり、

楽器を演奏したり、お母さまの手を取ってさすったりなさっていました。

クライエントさんの夫さんも、よく一緒に参加してくださいました。

一緒に旅行に行ったお話、合唱に参加していた頃のお話、お家の話、

ご自宅に植えられた季節の果物など、たくさんお話を伺いました。

個人に向けた音楽療法は、時間と共に、ご家族全体の音楽療法に

なっていたように思います。

 

フィラデルフィアに引っ越すことになり、他の方に引き継ぎをさせていただいた

のですが、ずっと気になっていました。

どうしていらっしゃるのか、でも、引き継ぎをさせていただいた以上、

こちらからはご連絡できませんでした。

 

そこへ突然メールをいただいたのです。

それは、お母様の命がもう間もないという内容で、そこで音楽療法を

お願いしたいと書いてありました。

もちろん、二つ返事で、翌日伺わせていただきました。

 

拝見したクライエントさんは、とても静かに横になっていらっしゃいました。

その日は、いくつか歌わせていただいたのですが、どちらかというと

娘さんとの思い出話しが中心でした。

私も、その前の年に祖母を亡くしていたので、どうしても重ねてしまい、

涙が出てしまい、きちんと分けてお話できたかは分かりません。

もう一度、伺わせて欲しいとお願いしてご了承をいただき、

そして、数日後、また伺ったのです。

 

その日は、娘さんから曲のリクエストをしていただいていました。

なので、「浜辺の歌」を中心に音楽を広げていきました。

音楽療法士は、ベッドサイドでただ歌うわけではありません。傾聴して、歌って。それだけならボランティアの方でもできるかと思います。(言い方が失礼になりませんように。音楽療法をするには必ずトレーニングが必要だとお伝えしたいのです。)

でも、音楽療法士は、呼吸を読み、小さな動きを捉え、終末期でモニターに繋がれているなら時にモニターで心拍や酸素量を見ながら、クライエントさんに合わせて歌っていきます。普通なら苦しい呼吸での歌。それが人生最後の歌になります。

娘さんとお話させていただき、クライエントさんの全てに合わせて「浜辺の歌」を歌い、刺激過多にならないようにアレンジして、また戻って・・・

繰り返していると、クライエントさんの目がはっきりと開きました。

そして、歌に合わせるように、口が動きました。

手も、動き始めました。

意識もはっきりなさっていたような気がします。

その場に「いらっしゃる」事がわかる時間でした。

 

娘さんが、お母さまのために選ばれた曲が、

お母様を呼び戻したように思いました。

 

音楽療法を終えて、部屋を出ようとしたところ、

娘さんがお見送りをしてくださるようなご様子でしたが、

お母様と一緒にいてくださるようにとお願いしました。

看取りの現場は多くはなかったのですが、

その「戻った意識」の意味することはわかっていたからです。

 

翌日、またご連絡をいただきました。

午前中に音楽療法をさせていただいた、その日の夕方に

ご容体が変化して、クライエントさんがお亡くなりになった

という内容でした。

 

たくさんの感謝の言葉をメールに書いてくださったのですが、

私こそ、その大切な時間に携わらせていただいた事に

感謝しかありませんでした。

音楽のもたらした最後の時間が、娘さんの選んだ「浜辺の歌」が

クライエントさんに起こした影響が、私にこそ意味のあるもの

でした。

 

改めて、音楽の力と、音楽療法士としての仕事の意味を

思い知りました。

 

長年に渡り、その命の輝きに立ち合わせていただけた事に

感謝を。

 

ご家族に、どうか優しい風が吹いていますように・・・。

 

 

 

 

(写真は私と祖母の、亡くなる3日前のものです。

音楽療法中の一枚。)

search previous next tag category expand menu location phone mail time cart zoom edit close