医療における音楽療法について
(寄稿させていただいた一般社団法人音楽療法振興協会からの転載)
長期の治療を要するような病気に罹ったとき、患者さまはどのような体験をするでしょうか。
- 突然の告知に驚いた
- 治療に関して不安
- 予後が心配
- 治療の副作用で疲れて体が動かない
- 痛みが酷くて辛い
- 治療に対するモチベーションが湧かない
- なんで自分がと怒りを感じる、どうせ治らないと諦めている
- 仕事ができず金銭面が心配
- 家族との関係が変わってしまって残念に思う
- 迷惑を掛けてばかりで苦しい
- 自分では何一つ選択できず言われるがまま治療していて苦しい
- 人間らしさが失われてしまった
これらは全て、患者さまの声です。そんな患者さまの声に対応するのが、医療における音楽療法の役割です。
医療分野での音楽療法は臨床と研究に基づいており、患者さまのニーズに応じて様々な目的で病院、ホスピス、リハビリテーション施設などで取り入れられています。医療分野で音楽療法を行うには、音楽療法士の資格のほか専門知識が必要で、スーパービジョンを受けながらの臨床経験が大切になります。音楽療法士は、大きく分けて3通りの方法で患者さまのケアをさせていただきます。
1) 医療行為の補助として
例えば、化学療法を受ける際に音楽療法を行うことで、吐き気を減らし、緊張を和らげる事ができます。この場合、音楽療法は、医療行為の補助となります。よりリラックスした状態で治療を受ける事で、薬に対する抵抗を減らしていきます。不快な症状や辛さを取り除くのではなく、和らげる事を目指し、以下のような目的で音楽を使って行きます。音楽療法士が同席せず、患者さまが患者さまのご都合で目的に合った音楽を聴く『音楽処方(Music Medicine)』でも十分に対応できる場合もあります。
- 睡眠の質を改善する
- ストレス、不安、緊張を紛らわせる
- 吐き気を和らげる
- 気分を向上させる
- 入院中の余暇活動として
2) 医療行為と並行して
例えば、高血圧、徐脈・頻脈などの症状を、音楽を使ってリラックスする、もしくは身体的リズムと音楽のリズムをマッチさせること(同調の原理)で緩和していきます。また、不安やストレスを音楽によって表現し発散するなど、ただ和らげるだけではなく、症状を取り除く事を目指していきます。このため、場合によっては薬の量を減らす事が可能で、これにより患者さまの身体への負担を減らす事ができます。例えば以下のような目的で音楽を使用します。
- 薬の効かない(もしくは合う痛み止めが見つかるまで)身体的痛みの緩和
- 不安、ストレスの発散、軽減
- 言葉にならない感情の表現
- 高血圧・頻脈・徐脈の緩和
- 吐き気の緩和
- 治療へのモチベーションの向上
- QOLの向上
3) 音楽療法を中心として
患者さまは、時に医療行為では治療できない辛さを抱えています。その一つがトータルペインです。トータルペインとは、身体の苦痛は不安やストレスなどの心理的要因、金銭面や仕事・人間関係などの社会的要因、「どうして私が病気になったのか」などの疑問を持つ精神的(スピリチュアルな)要因が複雑に絡み合って起こるという考えです。心理的・社会的・精神的苦痛を解決していく事で、身体的な苦痛を減らしていきます。また、予後の見通しが立たない、余命の宣告を受けたなどの場合には、音楽を通して生きる意味、生きてきた意味を考えていきます。患者さまのお心に寄り添って音楽を使用しますので、音楽療法を中心とする場合には少なくとも修士レベルで音楽療法を学んでいる事が必要不可欠となります。以下のような目的で音楽を使っていきます。
- トータルペインの緩和
- 生きる意義を探る
- 人生を振り返り、その意味を探る
- 病気に対する洞察を得る、病気との関係を探っていく
- ご家族のケア
音楽療法を受けるには
患者さまのご希望や、医療スタッフからの要請により、まずは音楽療法士がお伺いし、音楽を使ってどのようにお役に立てるかをみさせていただきます。必要があれば、その場ですぐに音楽療法を行い、症状がどのように変化したかをみていきます。医療音楽療法では、患者さまのその時の体調やご気分に応じて、一番必要とされていることを行なっていきます。必ずしも毎回同じ音楽体験をするわけではありません。体調が優れないからといってご心配なさらないでください。
音楽療法って、どんなことをするの
音楽療法を受けるのに、音楽経験は全く必要ありません。体験は患者さまと相談をしながら一緒に創り上げていきますが、例として以下の音楽体験をあげます。できる事、やってみたい事から、音楽体験をご提案させていただきます。
- 歌う、一緒に歌う
- 思い入れやメッセージ性のある歌や演奏を聴く
- 歌詞の意味を考える
- 作詞・作曲をする
- 簡単な楽器を演奏する
- 即興演奏をする
- リラクセーション
- 音楽を聴きながらイメージを使って心の中を探る(ボニー式音楽イメージ療法)
参考文献
Bruscia, K. E. (2015). Notes on the practice of Guided Imagery and Music.Dallas, TX: Barcelona.
Bruscia, K. E. (2014). Defining music therapy. University Park, IL: Barcelona.
Dileo, C. (Ed.). (2015). Advanced practice in medical music therapy: Case reports.Cherry Hill, NJ: Jeffrey Books.
Dileo, C. (1999). Introduction to music therapy and medicine: Definitions, theoretical orientations and levels of practice. In C. Dileo (Ed.), Music therapy & medicine: Theoretical and clinical applications(pp. 1-10). Silver Spring, MD: American Music Therapy Association.